診療放射線技術学科で行われている研究の一部をご紹介します。

ここに紹介した研究は科学研究費を申請し、採択されている研究です。ちなみに、科学研究費とは、日本学術振興会が「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させるために行っている「競争的研究資金」であり、ピアレビューによる審査を経て、独創的・先駆的な研究に対する助成を行うものです。
今泉 大将先生の研究
「X線誘発性細胞運動亢進に関するLINC複合体を介した細胞内反応の解析」

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研究内容:
 放射線治療の1つにX線治療があります。X線治療には X線誘発性のがん転移を引き起こすという課題があり、 それがなぜ起きるのかというメカニズムを明らかにする 必要があります。本研究では、細胞核と細胞骨格を結合 するLINC( Linker of Nucleoskeleton and Cytoskeleton ) 複合体構成因子SUN(図参照)を例にとり、放射線誘発性 細胞運動の分子メカニズムの解明を目指しています。 このような分子メカニズムが明らかになっていけば、 照射方法の工夫や分子標的薬・核酸医薬において標的 分子を提示する等、がん転移抑制を考慮した放射線治療 を提案できます。
小野 敦先生の研究
「リンパ浮腫診断のための非造影MRリンパ管撮像法の開発」
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がん生存者の約20~40%に発症するリンパ浮腫患者数 は10~15万人と推定されており,年間約6000人が増加 すると予測されています。現在,リンパ管を画像化する 検査の主流は,造影剤をリンパ管に取り込ませて撮影 する造影法です。本研究では,MR装置を用いて,造影 剤を一切使用せずにリンパ管の形態と流れを評価可能な 世界初のMRリンパ管撮像法を開発しています。血液中 とリンパ液中のデオキシヘモグロビン量の差による磁化 率効果の違いを利用し,独自に開発した磁化率を強調 する撮像法と画像処理を組み合わせることでリンパ管 のみを明瞭に描出します。この非造影MRリンパ管撮像 法は,従来の画像検査法で障害になっていた放射線に よる被曝や造影剤の副作用と費用が生じること,深部 のリンパ管が描出不良になる等の問題を一挙に解決 することができます。さらに,症状が軽微な段階の 検査や予防検診にも適しているため,より早期の リンパ浮腫診断が可能になります。

五反田 龍宏先生の研究
「マンモグラフィにおける乳房の三次元での被ばく線量分布の解明」
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乳房と同じ形状・組織となるよう組み立てたファントム

研究内容:

 皆さんもご存知のX線ですが,人体に当たるとあまり よくないことが起こります.俗にいう「被ばく」と呼ば れるものですが,X線の量が少ない場合には特に問題 ないのですが,量が多いと健康な組織を破壊してしまう ため非常に危険です.そのため,医療で使用するX線は, その量がきちんと測れているかを調べる必要があります. 私の研究は,マンモグラフィと呼ばれる検査のX線の量 を正確に測る方法の開発をしています.マンモグラフィ とは,女性の乳房をX線で撮影して乳がんなどを発見 する検査です.ファントムと呼ばれる乳房組織に近い 物質をブロック状にして,組み立てることで乳房と同じ 形状・組織となるように工夫しています.実は,私の 大好きなレゴブロックからヒントを得ています.マン モグラフィの被ばくを正確に評価することで,無駄な X線をなくし,少しでも安全・安心に検査をしていた だけるようなることが望みです.


成廣 直正先生の研究
「エックス線を用いない超音波CT装置の技術開発」

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 超音波CT検査技術の概念

研究内容:
 Computed Tomography装置(以下CT装置)はエッ クス線を出すエックス線管とそれを検出する検出器の 間に人体を入れ,人体に360度方向からエックス線を 照射し,透過したエックス線を検出して,コンピュー タで断層像を計算します.CT装置はエックス線を用 いているため,必ず被ばくが伴います.一方,超音波 診断装置は人体の体表面より超音波を発信させるプロ ーブを1方向から密着させ,さまざまな深さからの 反射エコー信号を得て,断面画像を表示させます. しかし,空気や骨等がある場合,その影響により,実 際に存在しない虚像であるアーチファクトが発生しま す.また,核医学検査は放射性医薬品を投与後,人体 から放出される放射線を360度方向から検出し,深さ に応じた放射線強度を画像化する技術です.本研究は, それら3つの技術を集結し,融合させたエックス線を 用いない超音波CT装置の技術開発を目的としています.


佐藤 修平先生の研究
「小児心臓CTの低電圧撮像プロトコール構築に関する研究」

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研究内容:
 先天性心疾患患児に対するDual-source CTを用いた 低管電圧高速らせん撮影と逐次近似再構成法の有用性 について後方視的に検討した。対象は5歳以下の先天 性心疾患患児287症例である。得られた画像を従来の filtered back projection (FBP) と、逐次近似再構成法 のひとつであるsinogram-affirmed iterative reconstruction (SAFIRE)で再構成し、画質を比較評価 した。SAFIREで再構成することによって、FBPで 再構成された画像と比べて約20%のノイズ低減と、 約25%のsignal-to-noise ratio (SNR)の向上を得ること ができた。また被曝線量については、実効線量が 80kVp群に比べて70kVp群が有意に低値であったが、 両群間でSNRに有意差は認めなかった。本撮影法 および再構成法は先天性心疾患患児に対して有用と 思われた。